オーディオルームの構造の検討 

防音する?しない?

地下造?RC造?鉄骨造?木造?

 

オーディオルームを検討する上で防音をするのかしないのかがまず最大の選択項目です。もちろん音質を考慮すれば防音はしない方が圧倒的有利ですが、防音をしないためには周りに家がない土地を選択するか音量を我慢するかのどちらかです。土地的に防音しなくても済む場所が最適に見つかれば間違いなくそれが一番オーディオルームとしては有利です。

 

今回は家の位置を駅から徒歩10分圏内と決めていました。用意した土地はなんと商業地域(建蔽率80% 容積率400%)にあり音を出すには一番不利な条件です。そのため強力な防音は避けられないことになります。

防音しないのであれば建物の構造での優劣に決定的な要素はありませんが防音するとなると優劣があります。

 

防音を考えれば 地下室>RC造>鉄骨=木造 であることは間違いなく、地下室が最優先候補です。しかし、昨今の気象状況を考えると河川氾濫や津波による水没リスクが付きまといます。きっちり施工しないと湿気に悩まされることも。

近隣に河川があるため当初より地下室の選択はありませんでした。

 

そうなると次候補はRCです。オーディオマニアであれば地下室かRC住宅はなんとなく憧れであって自分も昔からオーディオルームを作るならRCでと思っておりました。そのためRCでの建設を最初に検討することになりました。他の構造は鉄骨か木造ですが木造は木レスを目指す身とすると選択肢になく鉄骨のみです。そこでRCか鉄骨の選択になります。

 

もう一つオーディオルームを作るならそれだけの別棟(平屋)で建てるという希望がありました。さらに住宅部分とは通路でつながっているそんな形が使用上も防音的にも理想です。

RC(現場打ちもプレキャストも)先行で、バックアップとして鉄骨で検討を始め、最終的に両方とも最終図面まで(構造計算も)作っています。

 

RCと言っても様々なパターンがあり、プレキャスト・壁式構造・ラーメン構造です。プレキャストは住宅メーカーが限られますが限界値が多く天井高(3mぐらいが限界)・広さ(20畳ぐらいが限界)なと希望の部屋サイズが実現できず一番最初の段階で候補から外れ、耐震的にも最も有利とされる壁式構造もいろいろ設計検討していただきましたが同様に天井高(筐体で3.5mぐらいが限界)・広さ(筐体で20畳ぐらいが限界)と限界があり希望の部屋サイズが実現できませんでした。

そのため、RCならラーメン構造+壁式の工法になることは早々に判明しました。

 

鉄骨の場合は、重量鉄骨と軽量鉄骨造があります。RCは型にコンクリートを流すので建物が一体構造でありさらに質量則を考えれば(コンクリートで重いし隙間もなく詰まっている)防音性能では圧倒的に有利で、鉄骨の場合はあくまでも骨組みの話で壁については途切れ途切れのパネルを組み合わせる構造(木造でも一緒)でかつ、それほどの壁に質量をかけることができないため(耐震などを考えると比較的軽い素材が有利)不利です。

重量鉄骨であろうが軽量鉄骨であろうが(ちなみに木造でも)骨組みの違いの話であって、防音に影響する壁や屋根の構造はどちらでも基本的に同じであるため防音性能が変わることはありません。

ただ鉄骨の場合、現在の住宅事情ですと基本大手ハウスメーカーの選択が中心になります。

一部鉄骨を扱う工務店がありますが、近年の鉄骨の値上がり、建物用鉄骨を溶接する技術を持った工場の不足や鉄骨用のハイテンションボルト不足などの問題もあり大手でないとなかなか作れなくなってきています。

大手ハウスメーカーの場合、規格商品になっているため天井高や部屋のサイズ・その他使える部材に制約が存在します。

 

防音性能と構造

(あくまでも私がこのぐらいかなと思っている値で測定結果や根拠はありません)

*窓なしと仮定して 窓があれば3重窓とかにしてもその部分はD60ぐらいが限界

 

RC造(コンクリート壁18cm-20cmのみ): D50

*コンクリートの壁の厚みを増やしても単独では大幅に防音性能があがるわけではありません。

RC造(コンクリート壁18cm20cm+グラスウールを入れた室内2重壁(3重壁):D5560 (防音で有名な大建部材クラス)

RC造(コンクリート壁18cm-20cm+強化石膏ボード2(3)重貼り+グラスウール10cm 空気層 計20cm以上 ルームインルーム): D65D70

RC造(コンクリート壁18cm-20cm+強化石膏ボード2(3)重貼り×2層+グラスウール10cm×2層 空気層 計80cm以上 ルームインルーム):D80ぐらい?

RC造でもD80以上を目指すには空気層を確実に確保するか、RC造の中にさらにコンクリートで壁を作ってさらに強化石膏ボードの壁を作る ルームインルームインルームぐらいにしないと難しい?と思われます)

・鉄骨・木造 通常:D3045ぐらい

・鉄骨・木造+グラスウールを入れた室内2重壁(3重壁):D5055 (防音で有名な大建部材クラス)

・鉄骨・木造(ルームインルーム構造 通常の石膏ボード2(3)重貼り グラスウール10cm 空気層10cm以上):D55

・鉄骨・木造(ルームインルーム構造 強化石膏ボード2(3)重貼り グラスウール10cm 空気層 計15cm以上):D5560

・鉄骨・木造(ルームインルーム構造 強化石膏ボード2(3)重貼り×2層 グラスウール10cm×2層 空気層 計30cm以上):D6070

*鉄骨・木造の構造でD70以上を目指すのはなかなか難しい。

 

防音性能を考えればRCだけど・・・。

本来防音性能を考えればRC一択ではありますが、広く・天井高を確保するにはラーメン構造+壁式の構造となります。壁式であれば壁だけの構造ですので「柱」や「梁」が存在することはありませんが、ラーメン構造ですと「柱」や「梁」が必要です。「柱」や「梁」が必要となるとその分部屋が狭くなるので、できる限り細い柱・梁にした方が建物の筐体は小さく部屋は大きくできるのですが、十分な耐震を考えると多く太い柱・梁が有利です。

柱の本数・サイズや梁の本数・サイズは正確には構造計算をしてみないと分からないのですが、構造計算するにはかなりの手間と費用が必要で部屋のサイズと柱・梁の最適化が非常に難しいところが最大の難点です。

 

柱については基本部屋の四隅に建つものですが、部屋のサイズが大きくなるとRCの場合四隅だけでなく、四隅の縦横の中間(縦方向の真ん中、横方向の真ん中)にも柱が必要になってきます。そうなると四隅が狭くなるだけでなく、部屋の真ん中部分も狭くなり折角大きな建物筐体にしても柱が太く多くなり部屋の使える部分の面積はそれほど増えない(部屋が使いにくくなる)という矛盾が発生します。建物の筐体が大きくなればなるほど建築費用も急激に増大していきます。そのバランスも見なくてはなりません。

 

実際に構造計算を行った感じですと、建物の筐体で間口7m 奥行10m 天井高5mの建物であれば四隅の柱4本(70cm80cm角)、天井の梁(高さ70cm)×3本ぐらいで実現可能で、そのぐらいが縦方向の中間に追加柱を設けないで作ることができる最大のサイズぐらいではないかと思われます。

 

つぎにRCの場合難しいのは施工する工務店を探すことです。天井高を通常の住宅並みにすれば問題ありませんが、天井高を高くしようとすると(例えば4mの天井だと梁などを入れると5mぐらいの建物筐体が必要です)コンクリートを複数回に分けて打って行くなど通常天井高での施工より技術が求められます。また壁式であればRCを得意とする工務店ならば対応できますが天井高が高くかつ広い面積のラーメン構造となると通常の住宅をやっている工務店では無理で、中堅ゼネコンに工事を頼む必要が出てきます。しかし中堅ゼネコンとすると通常はある程度の階層のアパートやビルなどの建築を請け負っており、逆にたったオーディオルーム1室だけをやってもらおうにも規模が小さすぎてなかなか適正価格ではやってもらえません。(もちろん住宅部分もRCで規模が大きく一緒にやるとか、割増的に金額を払えばきっとやってもらえます)

 

その他RCで考慮する点とすると

@    実際に建てた方に聞くと雨漏りが多い。

これはRCで住宅やオーディオルームを建てられた方に話を聞くと、かなりの確率で1度は雨漏りを経験していたりします。通常の雨では問題なくても台風のような横殴りの雨で突然漏ったとかもあります。(その後修復してなんともない場合もあれば、どこから漏れたのか分からないままの場合も。陸屋根が採用されることが多く屋根の防水にはノウハウが必要)

A    結露の問題

B    耐震性能は高い(地震に強い)けど、地震の際にもしコンクリートに大きなクラックが入ったりするとその後修復できるか分からない

C    固定資産税が高い

 

鉄骨の場合は?

鉄骨の場合、重量鉄骨と軽量鉄骨の選択になります。

重量鉄骨の場合ビルなどを見てもらえれば分かる通り、鉄骨を太く大きくしていけばかなり天井高が高く、広大な部屋(ホールや宴会場みたいな)を作ることが可能だと思われます。ただ、重量鉄骨の場合RCと同様基本的にラーメン構造となるため、部屋の4隅や中間に太い鉄骨が必要となりRCの時同様部屋が狭くなる問題があります。また大規模な重量鉄骨も工務店よりは中堅ゼネコンに頼む必要が出てくる可能性が高いです。そのため重量鉄骨であるとRCに対して防音性能は劣る上に特に大きなメリットはないと思われます。

現在鉄骨構造の建物の値段が上がっており、重量鉄骨ですとRCと値段的にも大きな違いがないかもしれません。

 

一方、軽量鉄骨の場合、実現できる部屋のサイズは間口7m×奥行き10m×天井高3.5mぐらいが限界になります。また軽量鉄骨ですと工務店よりも大手ハウスメーカーが得意な分野となり、会社によって鉄骨の長さなどの規格が決まっており部屋の大きさに自由が利かないことが多いです。特に鉄骨の長さが決まっているため天井高が十分確保できない場合が多く、もし天井高を上げるには基礎を高くするしかありません。

軽量鉄骨の場合の最大のメリットは鉄骨が小さいために壁の中に鉄骨を埋める形となり部屋の4隅などに大きな柱が出ることはなく部屋を有効に使うことができることです。

以上を考えると、防音性能的には重量鉄骨でも軽量鉄骨でもほぼ変わらないため、部屋のサイズが7m×10m×3.5m程度以内であれば軽量鉄骨の方がいいのではないかと思われます。

 

その他鉄骨(軽量鉄骨前提)で考慮する点とすると

@    建物自体の構造として防音性能は低いので、室内にて防音性能を高める必要がある。

A    鉄骨では防音性能の限界値がD70程度とより高い防音性能を求めようとするのはむずかしく、RCに比べて同じ防音性能を得るにはより壁厚を厚くする必要がある。

B    RCに比べて建物の壁の強度が弱いので建物自体が振動してしまう可能性があり、原則ルームインルーム構造が必要。室内側の壁も強度を取る必要あり

C    近年の台風などの際に強風で損傷する可能性がある。

D    軽量鉄骨だと大手ハウスメーカーが強く、大手ハウスメーカーは基本かなり割高。

(大手ハウスメーカーの坪単価は基本高いので、建設会社が作るRCと値段的には変わらない可能性も)

 

その他の検討

@    2階建てにして1階の天井を抜く方法も考えられますが、1階と2階の間の梁は抜くことができないので梁が部屋の天井方向の中間に出てしまいデザイン的にいやだったためその方法はとりませんでした。

A    通常の1階・2階の吹き抜け構造を使用できないかについては、通常の住宅では15畳ぐらいのサイズが吹き抜けの限界であって、それ以上のサイズの場合は特別な構造にしなければならず結局は天井高の高い1階を作るのと同じになります。

 

どの構造を採用するのか(私の場合)

以上から、RC造か軽量鉄骨造の選択になったわけですが、両方ともに最終図面まで作成し・構造計算まで行いました。

 

全く同じ部屋のサイズ(防音した状態で内寸6m×8m9m×3.5mD70の性能

とした場合、RC構造で地元中堅ゼネコンに依頼した場合にかかる金額と軽量鉄骨構造で大手ハウスメーカーに依頼した場合にかかる金額はほぼ同じでした。(RCの方が100200万円ぐらい高い)

 

予算が大きく違えば答えは簡単だったのですが予算の差も小さく(全体予算に比べて)非常に悩みました。

 

住宅棟とオーディオ棟を通路でつなげた構造にするため住宅棟の建設もあり、

オーディオ棟がRCの場合住宅もRCに、軽量鉄骨の場合住宅も軽量鉄骨になります。

オーディオ棟をRCで住宅を軽量鉄骨や木造で建てるという方法もありますが、地震の際に建物の構造で振動の仕方が異なるため違う構造同士を連結するのが難しくエクスパンションジョイント(良くマンションの通路で使われているようなもの)を使ってつなげなければならないなど複雑な上、住宅棟とオーディオ棟別々な構造でやってくれる業者が見つかりませんでした。

 

悩んだ末選んだのは 大手ハウスメーカーの軽量鉄骨造。

 

理由は

@    大手ハウスメーカーと共同でハイスペックの防音室の開発を行う機会に恵まれましたこと。商品化のテストに参画。

A    RCでは部屋の四隅に柱が生じたり、天井に梁が大きく通ったりとスペースを有効に使うことができませんが軽量鉄骨造では部屋すべてまるまる使うことが可能なこと。

B    RCでは耐震等級が1しか確保できず、軽量鉄骨では耐震等級3が確保できること

最近比較的大きな地震が多発しており、熊本地震のように震度7クラスが複数回同時に来る可能性もあり、RCラーメン構造でかつ天井高が高いため地震の際のコンクリートの損傷リスクがあること。(建物の耐震性は高くても損傷すると継続使用ができない)

一方大手ハウスメーカーの構造では繰り返し地震に強い構造になっており、大きい地震の際ものちに修復で継続使用できる可能性があること。

C    雨漏りのリスクが大手ハウスメーカーの方が圧倒的に低いこと

D    RC造の場合、質量則により低域方向の防音性能は非常に高いですが、その分低域方向の音が部屋に留まるためオーディオ的には低域の処理が難しい側面もあります。

一方軽量鉄骨では低域方向の防音性能が低いため近隣住民に迷惑かけてしまう恐れもあります。その両方を天秤にかけて悩んだ結果。

E    住宅棟・オーディオ棟の図面を引っ張って固定資産税をシミュレーションしたところRCの場合年間約100万円近い固定資産税がかかる可能性があったことで、その金額を毎年払い続けるならオーディオ機器を買った方がいいのではないかという判断もありました。

F    YG Sonja XVjrを現在のオーディオルーム(7.5畳)に入れるまではオーディオルームがオーディオの音要素の8割を握っていてとにかく音がいいオーディオルームが大事だと思っていましたが、Sonja XVjrは現在の7.5畳でも非常にうまく鳴ったことで、オーディオルームの音要素へのウェイトが自分の中で1割ぐらいに下がったりしました。そのためオーディオルームに費用を割くよりはできる限りオーディオ機器に費用を割いた方がゴールには近いという結論に至ったことも軽量鉄骨決断の後押しになりました。